NO225.心のデスマッチ

NO225.時間無制限一本勝負
自閉症のお友達との我慢比べ
【自閉】    【LD】    【多動】    【注意欠陥】

自閉傾向のお友達の成果報告です。

初めてお会いした時は、言語的にはかなりの発達を示すものの、回転し、飛び跳ね、タイミングよく暴言を吐き、人を嘲笑い、物を投げ、指示が通らなかったお友達ですが、計画的にご指導させて頂き、幾つもの山を乗り越えて、今回最後の心の戦いに臨む事となりました。

昨年6月末から通所が開始されました。

倒れた桃の木に例えれば、最初の5ヶ月間は根を張り、「良くなろう」という心根を育てる事に力点を置いた支援が始まりました。

集団指導の中で、年長らしく所作を学び、何が正しいのか、どうするべきか、そして何より良くなりたいという気持ちを育む事に力を傾けたのです。

良い子になりたいという気持ちを育む事が出来ましたので、11月よりようやく個別支援がスタート致しました。倒れた木を、起こす作業で、今度の目的は欲求に対しての代償行動の獲得です。

お友達の特性として、困難な事に出会うと、作業を止めたり、物を投げたり、叩いたり、唾を吐いたり、暴言を吐くのを止めさせる支援で、第1段階は、好きなジャンプに置き換えました。「手をとってジャンプ」する事で心を落ち着かせるのです。

手をとってのジャンプから今度は、背後に周っての抱っこジャンプに移行し回数を減らします。代償行動の第3段では、次にスクワットに移しました。困難な事に直面した時スクワットをするのです。ちょっとした魔法が必要ですが、比較的移行しやすい代償行動です。

スクワットを1回2回3回…そして深呼吸へ

指導に関しては、技術介入が必要ですが、スクワット等との併用が可能で、最初は6回の深呼吸から4回、3回、2回と回数を調節していくと、即座に落ち着く事が出来るのです。

ジャンプは学校へ進学した際、余りにも奇異にうつりますが、スクワットは見た目にわかりやすく、我慢している事が理解しやすく、逆に褒められるという効用があります。

スクワットと深呼吸を併用するのですが、深呼吸での意識転換が可能になると更に褒められるのですが、最後に呪文にうつります。これがアファーメーションです。

一部の事例をお伝えしますが、呪文で使うアファーメーションはこんな感じです。
「私は出来る。」
「私は大丈夫。」
「失敗は成功のもと」
「我慢できる。」
「落ち着く落ち着く」
一番ぴったりする呪文を探して下さい。
これは観察から導き出し使用していきます。

並行してポジショニングも大切です。ポジショニングは嫌と言わせないという立ち位置の確保です。決定権者を先生、保護者、本人という序列を確立していきます。

今回のお友達は、代償行動もある程度のポジショニングも終了し、平仮名も覚え、本も読み、この春小学校の普通学級へ進学が決まりましたが、文字に関して手を取らねば書けません。どうしても書く気持ちが得られないのです。


第1ラウンド カ~ン



そこで個別支援を行っている先生がお休みの本日デスマッチを執り行う事と致しました。

お友達は常に時間を味方にしてタイムアウトを狙ったり、時間を無為にしてしまうため、文字習得の際どうしても、自分から書こう、なぞろうという指導が完遂しておりませんでした。

今日は優しい先生はおりません。私は時間の制約を受けません。徹夜になっても、お泊りになっても続行する意思を感じさせつつ静かに私(北田)の指導が始まりました。そして指導にはCOMPASS独自のオリジナルプリント「ひらがなのおけいこ」でリスタート致しました。


この「ひらがなの おけいこ」は1ページ1文字を6段階の指導構成で言語理解を深める、私共のオリジナル教材です。今まで1000名以上のお友達がこのテキストを使って言語獲得を行っております。指でなぞるから始まり、単語の構成を理解し、形を把握し、なぞり、単文復唱までの指導を実現した教材です。

「ひらがなの おけいこ」はあ行からスタートせず、一筆書きのような書きやすい言葉、書く事が優しい平仮名を一つ一つクリアーするために開発された教材です。

最初の「く」からスタート致しました。音の構成、二語文までスラスラ進むのですが、どうしてもなぞれません。個人用のホワイトボードに点描で描いた上をなぞらせたいのですが困難を極めます。

手を持ってもらわねばという依存心も少々あったようですが、怖そうな先生(私)が指導していますので、甘えも遊びも許しません。プリミティブな感覚もあり、猛獣の前の子犬と同じ様態ですので、抗う事も致しません。何度失敗しても、「はい、もう一度」時間は通例の5倍以上かかりましたが、時間の経過と共に、何とか初めてなぞり書きが出来ました。

そして次段の「し」を克服し、自分のお名前にもある「つ」に入りますがここであたりも暗くなり、彼女の対抗時間に入りました。そうですお友達の中の「出来ません怪獣」が満を持してとうとう出現したのです。


第2ラウンド 皆帰って二人きり…?



終わりの時間、タイムアップ攻撃がお友達の切り札です。「ご飯の時間だからもう終わり。」「夜遅くなったから、はい終わり。」「もう眠いから、これで終わり。」「帰らないといけないから、これで終わり。」

辺りも暗くなり、職員も帰宅し、お友達も既に誰もおりません。通例の指導時間は17時ですが、もうすでに18時を回っています。お友達の時間ですが、「そうね。遅くなったからお家の人には帰ってもらいましょう。」「あなたは、3文字きちんとなぞるまで帰しません。」

ご家族には一旦施設から出て頂きました。

そうです今回の事を想定して、今まで直接支援は控え、担当から事あるごとに私が有言実行するタイプであると言い聞かせてきたのです。

泣き言は聞かないのです。
甘えも許しません。
遅くなっても平気なのです。

そして頼りの綱であった家族を退出させ帰されてしまったのです。
「出来たら迎えにきてもらうね。」
「出来るまで頑張ろう。」
「先生は出来るまで待ってあげるね。」
「ご飯はないけど、水は一杯あるよ。」

泣いても知りません。「悲しいの?泣いたって、どうしようもないよ…書けるまで帰れないだけなの…先生も休憩していいかな?帰るの遅くなるけど…そこで寝る?泊まってもいいよ、ご飯はないけど…明日も出来なかったらお泊りしていいからね。ちょっとさみしいけど先生も一緒だから、出来るまで応援してあげるね。」

時間が遅くなっても平気だ宣言はお友達にとってとてもショックで、私が引き下がらない事を理解すると一瞬茫然とし、そして立ち向かって来ます。

通例なら、とりあえず泣き叫んで見せます。今回も泣いてくれましたが、にこにこ笑ってこちらは全く動揺をみせたりいたしません。

今回もそうでしたが、泣いても状況が何も変わらない事を理解すると、げんきんなもので、ピタッと泣くのを止めてしまいます。


泣くのが止まった時が最初の勝負どころ



状況的にお友達が不利である事に気付き、ポジショニングから抵抗でぬ状態です。指示を守り、書けば帰れる事もおおよそ理解しているのですが、今度は意地が障壁となって、頑なになぞる事、書く事を拒否します。全く筆を進めません。これも想定の範囲です。

時間コントロールが無駄と理解しても、どうにかなるのではと、もう一度探りを入れてきます。でも指示された通りにできないと帰れないとはっきり理解してくれた段階で、私は奥の手を出すのです。

意地は相手がいるからはるのであって、相手が変われば意地を張る必要性がなくなるのです。糠に釘、暖簾に腕押し状況を作り、心の誘導を行うのです。

COMPASS本部は人材に事欠きませんので、この段階で事前に準備していた秘密兵器を投入します。一度も支援担当をした事がない、私よりも話がわかりそうな先生にバトンタッチをするのです。これが人的シフトチェンジです。

指導者が変わって、わずか5分。あっけないのですがお友達の意地も消えて、初めて自力で指示された通りに3文字なぞる事が出来ました。今までを知らないから、関わりが無いから出来る魔法です。出来るときは、あっという間なのです。

お友達は自発的に書く事が出来ました。全て想定通りです。初めての先生がちょっと促しただけでさらっと書いてしまいました。人的シフトチェンジの効果です。

これはうるさい強面と交渉するより、やさしそうな、話の分かる相手と交渉したいと思う人間の心理行動の一つで、行動を促す時も大変有効な手段です。会社の交渉事等で、気難しい、怖げな社長と商談するよりも、やさしげで真摯な専務と交渉する法を望むのは自明の理なのです。

全く融通の利かない怖い北田先生より、やさしげな先生の方が良いのです。優しい先生のいう事を聞かず、私を呼ばれるよりもさっさとしてしまう方が得だという事なのです。

そして何より意地も人が変われば喪失するのです。

 

最後の仕上げ…本当のデスマッチはここから始まる。



上手に出来たので変わった先生達と一緒に大喜びです。

ここまで仕込みに7カ月要しています。刹那的な支援計画ではこんな事はできません。指導には緻密な仕込みが大切なのです。

私は約束を守るという所を見せないといけませんので、本人の目の前から約束通り家族に電話します。保護者は駐車場で待っていたので3分でお迎えです。

保護者がくるまでは、実に素直で、ニコニコです。いくらでも書けるのです。この段階でもう一度保護者の前で書くように約束をとります。ここが今回の指導のキモとなります。今後に響く魔法をかけたのです。

本人は褒められているので快諾なのですが、いざ保護者が到着するとまだなぞれなくなってしまいます。想定しておりましたが、心がリセットされてしまいました。

この段階で19時をまわっており思わず保護者と一緒に苦笑いです。

先程のやさしい先生が何度か促しますが、保護者の顔を見て、心理的に完全にリセットされているので、平素の成功(お友達の我儘達成)を追体験しようと、また指示を無視します。

ここからが時間無制限一本勝負の開始なのです。

保護者には、再度退出するようにお願いし、先程の先生も帰宅させます。

保護者はロビーにいて頂きますが、本人には私と本当に二人きりになったと思い込んでしまうように環境設定します。

またここから「おしくら饅頭」なのですが、ここが大切な最後の攻防となります。ここで負けたら今までの数ヶ月が無駄になります。

魔法がとけないように、繰り返し応援し、何度も何度も挑戦し、書くように促します。観念するまで続けます。それから1時間、ようやく自発的に再度要望通りに書く事が出来ました。無理を悟り、正しい行いに傾き、自活の道を時間をかけて選ばせたのです。

心のデスマッチに勝つ事が今回も出来ました。

本当の心理的抑制状態の完成です。この魔法はなかなか解けません。

これで今後さらにスムースな学力習得が可能となります。
本当の魔法がかかったのです。


カン・カン・カン・カン・カン・カン・カン・カン・カン



ともすると夜遅くまでと、お叱りを受けそうですが、勿論、保護者の了解の元に指導しています。どこまで時間がかかるかわかりませんでしたが、過去最高4時間の押し競饅頭の指導時間が必要でした。

今回も、同意の中での指導であり、これがお友達の成長の為の大切な山場であるとご理解頂いた上での指導です。勝手に行うと大きな問題となります。

私の指導方法を揶揄するのは簡単なのですが、これが午前中であったり、午後の早い時間では意味をなしません。お友達は夕方以降の持久戦が得意なのです。そうでなければとうに支援に成功しています。

素直に学ぶ事が出来なければ、お友達は今後多くのチャンスを失います。大きくなれば出来る等という戯言(たわごと)に耳をかしてはいけません。これほど無責任なお話はないのですから。

今回の指導を契機にお友達は明日から多くの文字をなぞり、自分の力で文章表記をする事が可能となり、小学校に進学してもノートをとる事に困る事もなく、様々な知識を習得する事が出来るようになります。

知識を得れば、本来の能力の開花が可能で、新たな世界に飛び出す事が出来るのです。

優しい担当の指導も、保護者の指導も明日から今まで以上に楽に通るようになるのです。

だって指示がとおらなければ、「北田先生とかわろうか?」「北田先生を呼ぼうか?」「北田先生に電話するよ…」と言うだけで状況を一挙に打開する事が出来るようになったのです。

だって私(北田)は許しませんから。

得意の時間コントロールは私には効きませんから。優しい先生や家族の方が私より100倍ましなのです。そして知識を身に付けて行く段階で、徐々に私の事がではなくなり、成果報告したい相手にアップグレードするのです。

だって良い子は叱られる事はありませんし、褒められるだけですから。

プリミティブな感性ではありますが、暴君でも、残虐な支配者に対しても絶対権者であると理解した段階で、褒めて貰いたい対象へ変貌を遂げるのです。怖い存在だけに褒められたくなります。理解を求めるのです。災難を避ける為良い子であろうと自発的な努力をおこなうのです。

難しく困難な事があっても、中断せず、努力を惜しまなくなり、必ず優しい先生や保護者と一緒に困難に取り組もうとするようになるのです。

最後に、誰にでもデスマッチを行ってよいわけではありません。じっくりと観察し、様々な支援の結果一定段階の成長確認が出来た上での特別指導です。失敗するとトラウマになり本質的に勉強嫌いになります。これは藪蛇で絶対にしてはならない対応です。

デスマッチを行うには、上記にもあるように事前の準備期間が必要です。環境が整ってなければ意味をなしませんので、指導にあたってはどうぞ十分なご注意頂きたいと思います。

また、この手法を揶揄するのは簡単ですが、必要な能力を獲得出来なかった時の辛さは想像を絶するものです。

このまま成長して自立出来るのか?
結婚出来るのか?
就職できるのか?
「この子と一緒に死のうか…」と何度も本気で考えた保護者の方々もおられるのです。

遅くなって可愛そうにも見えますが、晩御飯が遅くなっても死にません。帰るのが遅くなっても死にません。でも放置すればその子の未来は悲しい物になるのです。保護者が死を選択しなければならなくなるのです。

今出来なかったら、将来も出来ないとご理解下さい。

今獲得する大切さ、今だから出来る事が山のようにあるのです。体の大きくなった子ども達を制御するのは本当に困難です。

私は30年にわたって、幼児から高校生まで指導してきたから言えるのです。大きくなればなるほど困難を極めるとご理解下さい。

今回少々無理をして頂きましたが、お友達にとって今回の経験は未来を照らす礎になりえる指導であると断言致します。

お友達は書けれるようになれば、幸せをゲットできるのです。

今後のさらなる成長に期待下さい。

このお友達の成長報告はまた更に近い内に出来ようかと思います。どうぞご期待下さい。